大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和50年(ワ)9169号 判決

原告 長井由雄

右訴訟代理人弁護士 二神俊昭

同 小林実

同 寿原孝満

被告 北村勇吉

右訴訟代理人弁護士 上代琢禅

同 浜田源治郎

同 黒木芳男

主文

一  原告の主位的請求を棄却する。

二  被告は原告に対し、金一九五三万円の支払と引換えに別紙物件目録(二)記載の建物を収去して別紙物件目録(一)記載の土地を明渡せ。

原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(一)  (主位的請求)

被告は原告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物(以下本件建物という)を収去して同目録(一)記載の土地(以下本件土地という)を明渡せ。

(二) (予備的請求)

被告は原告に対し、金一四〇〇万円の支払と引換えに、本件建物を収去して本件土地を明渡せ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件土地は、もと訴外志々田サチエの所有であったところ、訴外小谷豊次は、右志々田から本件土地を賃借し、戦後、右土地上に本件建物を建築し、所有した。

2  被告は、昭和三〇年一月、右小谷から本件建物を買受け、同月一〇日、本件土地を志々田から期間二〇年(但し、同年同月一日を始期とする)の約定で賃借した(以下本件賃貸借契約という)。

3  原告は、昭和三四年六月二九日、右志々田から本件土地を買受け、本件土地の賃貸人としての地位を承継した。

4  原告は被告に対し、昭和四八年九月、墨田簡易裁判所に対し、原告を申立人、被告を相手方として、建物収去土地明渡の調停を申立てることにより本件賃貸借契約の更新を拒絶する旨の意思表示をした。右調停は、昭和五〇年五月一六日、不調により終了したが、被告は昭和五〇年一月以降も本件建物を所有し本件土地を占有している。

5  原告の右更新拒絶の正当事由は次のとおりである。

(一) 原告は、その所有にかかる別紙物件目録(三)記載の土地(以下原告所有土地という)のうち本件土地を除いた部分(以下原告使用部分という)を使用しているが、その形状及び位置関係は別紙図面のとおりである。右図面からも明らかなように公道に面した本件土地を被告が使用することにより、原告の使用する土地は路地奥になり使用が著しく不便なものとなっているばかりでなく、原告使用部分には、建築基準法及びそれに基づく条例により中高層建物の建築は全く不可能になっており、僅か一〇五・七八平方メートルの本件土地のため、原告所有土地の有効利用は完全に阻害されている。これは人口稠密な都市においては原告の損害はいうに及ばず社会的損失でさえある。

(二) 原告は、長井紙業株式会社、有限会社ナガイ、三栄印刷紙工株式会社を経営するが、右三社の従業員総数は七二名、所有車両台数一四台であり、うち従業員三〇名が長井紙業株式会社が借地上に所有する建物に雑居している。しかし右建物は有効面積一七坪の、いわゆるペンシルビルであるため手狭であり、従業員一名につき各一個の机を置くことができず、数名が机を共同使用しており、かつ駐車場も六台分の駐車面積しかない。また前記三社は、紙業の性質上広範な倉庫を必要とするが、倉庫面積不足のため在庫品の納入を差控えている状態であり、現状が続くならば、従業員数を増大し企業拡大を図ることが不可能であるばかりでなく、貨幣価値の下落、物価の上昇等の趨勢を考慮するならば企業の零細化を招来することは必至である。原告は、本件原告所有土地の他に土地を有しないので、被告に本件土地を明渡して貰い、土地の有効利用を図る他に解決の途はない。

(三) 他方被告の本件土地の利用状況についてみると、本件建物は倉庫兼事務所として利用され、被告の従業員が毎日一人か二人来る程度であり、被告の営業の本拠地という訳ではなく、また被告の営業は電話による取引が多いので他所に移転しても別段営業に支障をきたすこともない。

(四) また本件建物は終戦直後に建築されたバラック同然の粗末な建物であって、建築後三十数年を経過した今日、著しく老朽化し補修を重ねてどうやら持ちこたえている状態であり、既に耐用年数を経過している。

(五) 加えて被告は本件建物以外に次のとおり、はるかに利用価値の高い土地、建物を所有しており、本件土地を必要とする事情は極めて薄い。

(イ) 台東区上野六丁目(通称アメ横)に店舗

(ロ) 江戸川区中央三丁目五七七番

宅地 二三四・七一平方メートル

(ハ) 同所同丁目五七八番の二

宅地 七九・三三平方メートル

(ニ) 同所同丁目五七七番九七―二号

居宅 五二・〇六平方メートル

(ホ) 同所同丁目五九二番一号

共同住宅

一階 一二八・九二平方メートル

二階 一二八・六六平方メートル

(ヘ) 同所同丁目五九二番一の二号

共同住宅

一階  九六・六六平方メートル

二階  九六・六六平方メートル

6  以上原・被告双方の事情を勘案すれば、原告のなした更新拒絶には正当事由が存することは明らかであると思料するが、仮に以上の事情のみでは正当事由を具備するに充分でないとしたら、原告は正当事由を補完するため被告に立退料として金一四〇〇万円もしくはこれを著しく超えない金員を提供する。前記のとおり本件建物は既に建替の時期にきていることを考えれば右立退料の給付を得れば本件土地を明渡すことは何ら被告の不利益とはならない筈である。

7  よって、原告は被告に対し、賃貸借契約の終了に基づき、主位的に無条件で、予備的に金一四〇〇万円の支払と引換えに、本件建物を収去して本件土地を明渡すことを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1ないし4の事実は認める。

2(一)  同5の(一)のうち、原告が原告所有土地を所有していること、原告の使用部分と本件土地の形状及び位置関係が原告主張のとおりであることは認め、その余は争う。

(二) 同5の(二)のうち、原告が原告主張の会社を経営していることは認め、その余は争う。

(三) 同5の(三)のうち、被告が本件建物を倉庫兼事務所として利用していることは認め、その余は否認する。

(四) 同5の(四)のうち本件建物が既に耐用年数を経過していることは否認する。

(五) 同5の(五)のうち被告が(ロ)、(ハ)、(ホ)、(ヘ)の土地建物を所有していることは認め、その余は否認する。

3(一)  原告所有土地のうち原告使用部分が本件土地を被告が占有することによりある程度不自由なことがあるにしても、原告は、本件土地を被告が使用していることを知ったうえで原告所有土地を取得したのであって、今更原告使用部分の有効利用が図れないとして被告に明渡を求めることは許されない。しかも原告使用部分も全く利用できない訳ではなく、現に原告はここに建物を所有して利用しているのである。

長井紙業株式会社所有の建物は地下一階、地上八階の立派なビルであり、また原告は本件土地の裏側に建物を所有していることを考えれば、本件土地の明渡を求める程の必要性があるものとは認め難い。また仮にその必要があるものとしても、原告は会社三社を経営する程経済的に余裕のある者であるから、原告の経済力をもってすれば他に容易に土地を取得することは可能であり、被告の利益を奪ってまで本件土地の明渡を求めることもない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがなく、右事実によれば本件賃貸借契約は昭和四九年一二月三一日の経過によりその期間が満了したものであるところ、被告は昭和五〇年一月以降も本件土地の使用を継続し、これに対して原告は昭和四八年九月から昭和五〇年五月まで行われた調停の中で被告に対し本件土地の明渡を求めることにより被告の期間満了後の本件土地使用について遅滞なく異議を述べたものと認めることができる。

二  そこで原告が右異議を述べるにつき自ら本件土地を使用することを必要とするなどの正当事由が存したか否かについて以下検討する。

1  前記当事者間に争いのない事実に《証拠省略》を総合すると次の事実を認めることができ右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  本件土地を含む原告所有土地はもと志々田サチエの所有であったところ、同人は本件土地を訴外小谷豊次に、その余の部分(原告使用部分)を訴外飯田某にそれぞれ賃貸していた。

(二)  訴外小谷は、戦後本件土地上に本件建物を建て本件土地を使用していたが、事業が行詰ったため昭和二九年ころ、当時取引先であった被告に本件建物を譲渡した。被告は、昭和三〇年一月、志々田より本件土地の賃借権譲渡の承諾を得、あらためて同人との間で昭和三〇年一月一日を始期として期間を二〇年間とする本件賃貸借契約を締結した。

(三)  他方訴外飯田は、原告使用部分に建物を所有し、関口製袋有限会社を経営して紙袋の製造を行っていたが、やはり事業が行詰ったため、同人と取引があった原告が右会社の事業を引継ぐことになり、昭和三四年六月、原告は訴外飯田から原告使用部分の借地権を譲り受けた。

(四)  原告は、そのころ地主である志々田に対し借地権譲受について承諾を求めたところ、同人から本件土地を含む原告所有土地の買取を要求されたため、同人から要求された額(坪当り一万円)で買取った。これより先右志々田は本件土地の買取を被告にも求めていたが、被告が右買取価格を承諾しなかったため、やむなく本件土地を原告に売渡したものである。

(五)  原告は、原告使用部分の形状から通路部分が狭く使用に不都合であるため将来被告から本件土地を明渡して貰うことを考えて本件土地も買取ったのであるが、昭和三五年になると早速被告に本件土地の明渡を求めた。当時本件土地の賃料は一か月一二〇〇円であったが、被告は原告から明渡を求められた後は賃料を供託して今日に至っている。この間原告は賃料の請求はなさず、勿論増額の請求もしていないが、被告は現在一か月一六〇〇円の割合で賃料を供託している。

2  原告所有土地の形状及び本件土地の位置関係が別紙図面のとおりであること、原告が長井紙業株式会社(以下長井紙業という)、有限会社ナガイ(以下ナガイという)、三栄印刷紙工株式会社(以下三栄印刷という)の三社を経営していることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると次の事実を認めることができ右認定に反する証拠はない。

(一)  原告は、昭和三四年以前から東京都台東区蔵前四丁目六番地の借地(約三三坪)上の建物で長井紙業を経営し、紙類の販売をしていたが、前記のように関口製袋の事業を引継いでからは、ナガイを設立(設立は昭和三四年一月)して紙袋等の製造販売を主とする右事業を原告使用部分の建物(二階建)であわせ行うようになった。その後ナガイの事業規模の拡大により、新たに昭和三六年三月三栄印刷を設立し、製造部門は同社が担当し、販売部門をナガイが担当することになった。

(二)  ナガイと三栄印刷はその後順調に発展し、原告使用部分の建物では手狭になったが、被告より本件土地の明渡がえられなかったため右建物を高層化することができず、そのため原告は従前長井紙業が使用していた前記台東区蔵前四丁目の借地上に昭和四八年一月、建築面積約八一平方メートルの鉄骨鉄筋コンクリート造地上八階、地下一階のビルを建築し、ここにナガイと三栄印刷を移転した。右ビルの地下部分は機械室と従業員用の食堂であり、一階は駐車場(車両二台分)二階は長井紙業の事務室、三階、四階、五階は主にナガイの事務所及び倉庫(但し四階は三社共通で使用)、六階は三社共通の役員室と応接室、七、八階は原告家族の居室として利用されている。しかし右ビルには商品の出入の関係で比較的大きなエレベーターが設置されていることもあって各階とも有効面積は比較的狭いものとなっている。このビルにナガイと三栄印刷が移転した後は、原告使用部分の建物は長井紙業の倉庫として利用されている。なお三栄印刷は草加市に工場があり前記蔵前のビルには事務所のみがある。

(三)  原告の経営する三社は、いずれも原告を中心とする同族会社であるが現在、長井紙業は一五名、ナガイは一五名、三栄印刷は四二名の従業員(いずれも役員を含む)がおり、その保有する自動車は三社あわせて一四台である。このため現在でも前記ビルでは手狭であり、従業員一人に一個の事務机が割当られず、一部は共同で利用している状況である。また駐車場も足りないため原告は昭和四九年八月、前記ビルの近くに木造二階建の建物(一階四二・二八平方メートル、二階三八・五七平方メートル)を買い求め、一階部分を駐車場に改装し、二階部分は従業員の宿舎として利用している。

(四)  原告は、現在でも原告使用部分の通路幅が狭くトラックの出入に支障があるだけでなく、事業の内容から更に倉庫を拡大し、できれば店舗も確保したいと考えているが、現況では通路の関係で原告使用部分には二階建以上の建物建築が不可能な状態にある。更に原告はその経営する三社の事業規模拡大を図りたいと考えているが、原告には原告所有土地のほか前記にあげた土地、建物しか有しておらず、被告に本件土地を明渡して貰い原告所有土地に中高層のビルを建てたいと強く願っている。

3  被告が、江戸川区中央三丁目五七七番の宅地二三四・七一平方メートル、同所五七八番二の宅地七九・三三平方メートル、江戸川区中央三丁目五九二番地に木造共同住宅二棟(一棟は床面積一階一二八・九二平方メートル、二階一二八・六六平方メートル、他の一棟の床面積は一、二階とも九六・六六平方メートル)を各所有していることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると次の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(一)  被告は、本件建物を取得する以前から麻袋、紙袋等の製造販売、輸入衣料の販売等を業としてきたが、本件建物を取得してからはここでその営業をするようになり、昭和三二年には有限会社北村商店(以下北村商店という)を設立した。右会社は被告とその家族を主たる構成員とする会社であり現在従業員は家族従業員も含めて八名おり、年間約六〇〇〇万ないし八〇〇〇万円の売上がある。

(二)  北村商店は上野の通称アメ横に占有面積約三・五坪の借店舗を有しているが、右店舗では小売が中心である。本件建物にはミシンが数台設置され、衣料品の修理、加工が行われるほか倉庫、事務室などに利用され、卸売を中心とした業務がここで行われている。卸売は電話による取引も多いが、直接本件建物を訪れ、注文をする客もおり、被告としては長年の顧客との取引関係上本件土地から離れたくないと考えているが、とりわけ本件土地に執着する訳ではなく、他に適当な代替地があれば移転してよいとも考えている。

(三)  被告には前記当事者間に争いがない土地、建物のほかに、前記江戸川区中央三丁目五七七番、五七八番二の宅地上に鉄骨二階建の居宅と木造二階建の建物を所有している。被告は右木造二階建の建物で以前雑貨屋をしたことがあるが、現在は物置として利用している。

被告は、北村商店からの収入のほかにアパート二棟からの収入もあるが、右アパートには入居者が少なく、あまり大きな収入源とはなっていない。

4  《証拠省略》によると次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(一)  本件建物は終戦直後ころ建築された簡易な木造トタン葺の建物で、登記上は二棟の建物となっているが現況は一棟の建物となっている。

現在本件建物の老朽化は著しく、被告は三年に一度位の割合で修理を加えてどうにかもちこたえている状態である。このため被告は前々から建替を強く希望し、堅固な建物を建てるために本件賃貸借の借地条件変更許可の裁判を裁判所に申し立てているが、原告から本件土地の明渡を求められているため、やむなく現状を維持している。

(二)  本件土地の昭和五二年四月一日時点でのいわゆる更地価格は一平方メートル当り二七万三六〇〇円であり、本件土地付近の借地権価格の更地価格に対する割合は平均七五パーセント程度である。

三  右当事者間に争いのない事実及び証拠によって認定した事実に基づき以下検討するに、原告は、原告の経営する会社の事業上の必要から倉庫、店舗等として使用する、より大きな建物を保有する必要に迫られているものの、原告所有土地の形状、特に通路幅が狭いことから原告使用部分には中高層建物の建築が不可能であり、他に中高層建物を建築できる土地を所有していない原告にとって、本件土地を使用する必要があることが認められる。他方、被告においても長年その事業の本拠を本件建物においており、本件土地の必要性という面からみると、原告に勝るとも劣らない事情の存することが窺える。しかし、原告は、本件土地を取得した当初から将来本件土地を被告から明渡して貰うことを考え、本件土地の賃貸借による経済的利益を全く考えておらず、そのためこの間の大きな社会的、経済的変動にもかかわらず原告からは賃料増額の請求を全くせずに今日に至っており、反面被告は本件土地を低額な賃料を供託することによって使用し収益をあげてきたこと、本件建物は現在相当に老朽化が進み、被告自身も建替の必要があることを認める程に至っており、本件建物の所有を目的とした本件賃貸借はほぼその目的を達したものといえなくもないこと、被告の本件建物の利用状況は小規模の倉庫、事務所、作業所であることに鑑れば、比較的容易に他に移転することが可能であり、特に本件土地に固執しなければならない程の事情は窺えないこと、被告は他に前記のとおり不動産を所有しており、特に江戸川区中央三丁目にある居宅隣の木造二階建の建物(現在物置として使用)を事業のために利用することも可能であると考えられること(被告は、同建物は住宅地にあって移転する土地としては不適当である旨主張するが、本件建物の利用状況からみて、特に住宅地であるからといって支障があるものとは考え難い。)などの事情が存するのであって、これら原、被告双方の事情を総合勘案すると、原告において無条件で被告に本件土地の明渡を求められる程の正当事由が存したものとは認め難いが、正当事由を補完するものとして相当な立退料を提供するならば、原告のなした異議には正当事由が具備するものと解するのが相当である。

そこで進んで立退料の相当額について判断するに、前記二、4(二)のとおり、本件土地の昭和五二年四月一日時点での更地価格は一平方メートル当り二七万三六〇〇円であり、本件土地付近での借地権価格の更地価格に対する割合は平均七五パーセント程度であるというのであるから、いわゆる借地権価格は一平方メートル当り二〇万五二〇〇円となる。また本件土地の借地権を譲渡する場合の承諾料(名義変更料)は借地権価格の一〇パーセント程度が相当と認められるので二〇万五二〇〇円に一〇五・七八(面積)と〇・九(承諾料を控除した乗数)をそれぞれ乗ずると、およそ一九五三万円という数値が得られる。右数値は被告が失うべき借地権の補償を主眼とした価格であるが、前記のように本件建物は既に建替の時期が到来していることや原告も被告の本件土地占有を知って取得したことなど、本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、右金額をもって正当事由の補完となりうる相当な立退料と考えられる。右金額は原告が申し立てた金額よりやや多額であるが弁論の全趣旨に照らし原告の申立の範囲を超えるものではないと認められる。

四  以上によれば、原告の本訴主位的請求は理由がないので棄却し、予備的請求は、金一九五三万円の支払と引換えに本件建物を収去して本件土地の明渡を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用し、仮執行宣言の申立については相当でないからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 大橋弘)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例